「先生―、起きてくださーい。今日もここで寝ちゃったんすか?これで何日目ですか?もうそろそろ家に帰ってくださいよう。え?今日は休講?や、ダメですって!こないだもそれで美術概論休講にしたところじゃないっすか!え?替わりに俺がやればいいじゃん、って?いやいや、俺はただの院生ですってば!ムリッす、絶対ムリッす!先生―><!」
俺は芸大の博士課程に通ってる。
もともと絵を描くのは大好きだったんだけど、それと仕事とを繋げる想像はしていなくて、普通に大学に行って、普通に会社に入って、普通に結婚する、そんなつもりで過ごしてたんだけど。
高校時代に、俺の成績を何とかして上げようと、大学名と容姿だけで母親が選んだ家庭教師に影響を受けまくって、なぜか今俺は、美術品の修復の研究をしている。
そう、母親が選んだ家庭教師っていうのが、今の俺の担当教官。
大学でも一番若い准教授で、頭は抜群にキレルけど、かなりの変わり者。
俺は院生でもあるけれど、ほとんどこの先生の世話係になってる、っていう。
「はぁ・・。もう二度とあんな、お前に授業を任せる、みたいなドッキリ、しかけないでください。
や、だから、冗談を言うなら「冗談を言いますよー」って顔して言ってくださいよ。
無駄にハンサムな先生の顔で、真顔されると、冗談言ってるなんて思えないんすよ。
え?俺が先生に似てるって、学生の間で評判?え?マジすか?え?ちょっとうれしい(照)。
え、どこが似てるって言われてるんでしょうねぇ。えー、ほくほく♪
え?「で、どんな顔が『冗談を言いますよー』って顔か、やってみて」って?
え?そんな質問、ありっすか?超めんどくせー・・あ、ウソですウソです。
え?だからどんな顔かって?えー・・・だから、こんな顔です><!(やけっぱち)」
もう、ホントやだ、こんな生活><!
「え?ラブレターすか、やっぱ先生、モテモテですねぇ。変人・・あ、すいません、個性的ですけど、先生、カッコいいですもんねぇ。うらやましいなぁ。え?このラブレターは俺宛て、って?
マジすか?!ホント?!見せてください。
あー、投げないで!大事なものなんですから!
えー、なになに?『中丸先生へ。』うわー、先生っていい響き♪
『先生、いつも教授のお世話係、お疲れ様です』うわぁ、見ててくれてる人、いるんだ!
俺の孤独な戦いだと思ってたけど、あーやっぱり見ててくれてる人はいるんだ!
がんばってきてよかった(涙)!で、なになに?
『先生の、白衣と黒縁メガネが似合うところが好きです』
ほうほう。白衣に似合う似合わないってあるのか(笑)。でも、メガネが似合うって言われるのは、うれしいなぁ♪で、『先生の、ときどき着ているアーガイル模様のカーディガンやベスト姿が好きです』
えー!よく見てるねー!ひょんなきっかけでアーガイルを着始めたんだけど、それからはしっくりきちゃって、今は何枚も持ってるもんなぁ。うれしいなぁ!あ、すいません、先生、いたんでしたね。すいません、一人の世界に浸ってました。
『先生の、資料を配ってくれるときの手が大好きです。先生の手は、本当に綺麗でドキドキします』
うわー!これって、マジラブレターじゃないっすか!俺、手だけは自信あるんですよ!今までも何度も「手タレになれる」って言われてるんですよ。手タレってわかります?手のモデルですよ、モ・デ・ル!!あー、だからそういう冷めた目をしないでくださいよう。たまには喜ばしてください、普段大変な目に遭ってんですから・・あ、すいません、失言でした。
『これからも、がんばってください!』
うんうん、がんばっちゃうよ!もうね、勉強も学生指導もがんばっちゃうよ!
『特に、教授から出された課題があって大変だと思いますけど、期日に間に合うように、ぜひがんばってください』
あー、やっべ!忘れてた!てか、この子、すごいですね、俺が教授から山のような課題をもらって、ヒーヒー言ってるのも知ってたんですね。すごいなぁ。こういう、俺のことなんでもわかってくれてる子と結婚したら、ホント幸せでしょうねぇ。えー、なんていう子なんだろ?名前は、名前は・・
『これからも応援しています。がんばってね! 准教授より』
超めんどくせー!!!!
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Peacsfuldays(たろちゃん)
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